復刻版 神戸市電物語

広島電鉄 1156号

 昭和46年に神戸新聞社から出版された『神戸市電物語』が、このたび復刻版として再発売されました。なぜ今復刻されるのかというと、平成22年に神戸市電が開業100周年を迎えるからだそうです。もう廃止されたものを「100周年」と言うかなと思いますが、もともとは神戸新聞に連載されたもので、関係者の証言を交えつつ、神戸市電61年の歴史をまとめたものです。もともとこの本は持っていたのですが、新たに買い求め、読み直してみました。
 

 市電廃止記念に書かれたものなので、当然、市電は過ぎ去っていく過去の乗り物として、モータリゼーションが進み、事業が赤字化する、どこの大都市でも同じようであった路面電車の廃止までの軌跡が描かれています。記載に整合しない部分があるのですが、事業としては、昭和30年には大きな黒字を記録し、昭和30年代半ばまでは、黒字が続いていたそうです。そして、最初の路線の昭和41年、わずか数年で、市電は命運を決められてしまったのでした。公営企業だから「人」の問題に手をつけるのは難しかったのかもしれないけれども、合理化がもっと早く進められればどうだったか、軌道敷への自動車の乗り入れが規制されていればどうだったか、それは今だから思うことというのは承知のうえで、やはりそう思わざるを得ません。
 大きな背景として、交通局関係者でも、当時、路面電車はいずれ消え行くものという考え方があったようです。今回、読み直してみて、欧米の過密都市では、路面電車が廃止されている、いずれ神戸もそうなるという実際に現地を視察した交通局関係者の証言が印象に残りました。路面電車の廃止は、今風に言えば、当時の「グローバルスタンダード」だったのでしょう。でも、地域交通ですから、その都市なりの特性と実情に合わせたものであってしかるべきでしょう。現に当時の「グローバルスタンダード」に逆らい、残したところでは、貴重な財産になっているところもあります。だから、私は今になって「欧米ではLRT」なんていわれても、説得力をまるで感じないのです。50年前、欧米では路面電車は時代遅れと言って、廃止したじゃないかと。
 市電に代わる未来の乗り物の章もあって、当時どのようなことが考えられていたか、なかなか興味深いです。その中で神戸で実現したものというと、ポートライナーくらいで、もちろん未来の乗り物としての路面電車の姿はありません。40年も経つと時代は変わる、そういってしまえば、それだけのことですが。