都電の追突事故の原因について

都電 7505号

 一昨年の6月に都電荒川線で発生した電車どうしの衝突事故について、国土交通省航空・鉄道事故調査委員会から報告書が公表され、各紙が報じています。
 都電荒川線事故、証言より速度出ていた可能性も 調査委 朝日新聞
 都電追突事故:車間距離不十分だった 事故調が報告 毎日新聞
 車間確保せず、速度超過が原因 都電荒川線追突で事故調 産経新聞
 後続の速度超過が原因 荒川線事故で報告書 読売新聞
見出しには「速度超過」、「車間距離不十分」と書いてあります。事故報告書の本文もすでにネット上に出ています。
 鉄道事故調査報告書 東京都交通局荒川線梶原停留場〜栄町停留場間車両衝突事故 航空・鉄道事故調査委員会
 追突した電車の運転手が「軌道運転規則」の「先行車両との距離が100m以下のときの運転速度は15km/h 以下とする」という規則を守っていなかったというのが結論のようです。一般の鉄道には「閉塞」という概念があって、一定の区間には1本の列車しか入らないよう信号制御され、安全を確保しています。さらに信号だけでは見落とすことがあるので、ATSのような別の手段も講じられています。路面電車でも阪堺電車嵐電の専用軌道区間では同じような保安装置があります。しかし、一般の軌道の場合、今回の都電もそうですが、この「閉塞」という概念がなくて、それに代わる規則が「100m以下15km/h」ということになります。ところがこの報告書を読んでいると、とても気になる箇所がありました。追突した電車の運転手の口述です。
 「軌道運転取扱心得には追従運転について「先行車両との間隔が100m以内になったときには15km/h 以下で運転」という表現があったと思う。この制限速度はかなり遅いので、そこまで落としてというのは自分ではやっていなかった。」
 知っているけど「やっていない」というのですから、守るも何もありません。この人を個人的に責めようということではなくて、この規定は、鉄道でいう「閉塞」と同じ意味を持つ保安上きわめて重要なルールにもかかわらず、今回のように前の電車が予期せぬ挙動をとって急ブレーキをかけない限り、守らなくても何も問題が生じないところが落とし穴だと思います。あえていえば、この人だけが「やっていない」のかというと、先行する電車に100m以内に近づいた電車が絶えず15km/h以下で走っているかを思い起こすと、にわかに断言しかねるものがあります。
 今回の場合は先行が試運転の電車という特殊なケースで、試運転の区間、内容が他の運転手に周知されていないなどの問題ももちろんあります。「急に止まると知っていればぶつけたりしないよ」というのも一面の事実で、そのような観点からの対策も必要でしょう。しかし、そんな特殊なケースでなくとも、併用軌道で車が軌道上に進入した、専用軌道でホームから人が落ちたなど、急ブレーキをかける場面は想定されるわけですから、「100m以下15km/h」は絶対に守るということを今回の事故の教訓としてほしいと思います。