全盛期の神戸市電(その2)

広島電鉄 582号

 『全盛期の神戸市電』(下)を買ってきました。下巻は神戸市電の車両編というべきもので、前半は宮武浩二氏の「神戸市電回想録」と題する神戸市電の車両史、後半は小西滋男氏が撮影された1950年代からの電車の写真を中心に、「神戸市電の肖像」として構成されています。

全盛期の神戸市電〈下〉 (RM LIBRARY(76))

全盛期の神戸市電〈下〉 (RM LIBRARY(76))

 内容はマニア向きではありますが、非常に面白く読めました。例えば昭和30年前後に各地で登場した「和製PCCカー」と呼ばれる電車は、大半がその高性能を生かすことなく、路面電車の衰退期を迎えてしまいます。神戸市電でいえば1150形が「PCCカー」に当たるのですが、新技術と初期故障に難儀して、結局大阪市電の中古台車に取り替えられてしまう経過が、当時の関係者の証言として語られていて、貴重な記録となっています。今でも新車が入るといろいろ不具合が起こったりしますが、その比ではなかったようですね。
 また、500形のことも触れておくべきでしょう。500形は、戦前、700形への更新計画があったものの戦争で中断となり、新車投入が困難となったため昭和30年代中ごろから延命措置として車体更新が行われ、さらに合理化を進めるためワンマンカーに改造されます。そして、ワンマン化されていたため、神戸市電廃止後も広島電鉄に引き取られ、活躍することになります。このあたりのいきさつが、市電の盛衰と重ね合わせて書かれているところも印象に残りました。「神戸市電の肖像」の方には、500形とよばれるJ車、K車、L車の写真も収められていて、車両の特徴や改造の経過が分かるようになっています。今日の画像の広島電鉄582号は、大正13年製の神戸市電J車から改造されたもので、この本の写真と比べてみると、屋根の形状にJ車の特徴を色濃く残していることが分かります。
 写真のキャプションを読むと、車両の改造や改番の経緯も調査されているようなので、できれば、諸元表のような形でまとめていただいておけば、なおよかったかと思います。それはともかく、神戸市電を後世に伝える貴重な資料であることは間違いありません。