長崎「電車」の本

長崎電気軌道 3001号

 JTBのシリーズ、今回発売されたものの最終回です。長崎、ことさらに「電車」と強調してあるのは、地元では「電車=路面電車」だからでしょう。対語は、「汽車、列車=国鉄」ということになります。路面電車を「市電」とは呼ばないところもありますね。長崎のほかにも広島、高知なんかがそうだと思います。「路面電車」を何と呼ぶかにも、歴史と地域性のようなものが感じられて興味深いです。

 この本の著者の田栗氏は、長崎電気軌道OBで電車の設計や社史の編纂にも携わった経験をお持ちであり、すでに長崎の「電車」に関する著書もある方で、本書も著者の知識と経験の凝縮された、充実した内容となっています。それともう一つの特徴は、昭和21年に長崎を訪ねたという宮松金次郎氏の写真が大量に掲載されていること。遠くへ旅行するには、座れるかどうかも分からない満員の「鈍行列車」に何十時間も揺られなければならなかった時代に、東京から長崎まで電車の写真を撮りに出かけた行動力には、感服します。この宮松氏の貴重な写真によって、定点対比の幅が広がっていると感じられます。あと、このシリーズでは珍しく、車両紹介にも多くのページが割かれており、諸元表や車両竣工図の縮小版まで載っているのもマニアにとってはうれしいところです。長崎といえば、歴史的に路面電車の路線短縮がなかったことはよく知られていますが、軌道の付け替えや、道路の拡幅は行われていて、定点対比では、その遷り変わりもたどれるように配慮されています。ということでたいへん満足できる内容でした。
 長崎の「電車」の記事を紹介しておきます。
 路面電車の日 レトロな魅力満載、木造電車「168号」走る/長崎 毎日新聞
 イベント 路面電車に乗って被爆体験聞こう 小学生親子募集−−8月2、3日/長崎 毎日新聞
168号と今日の画像の3000形とは、車齢が90年以上開いているわけで、彼らが同じ線路を走っているのも長崎の「電車」の魅力になっています。
 もうひとつ今日のニュース、長崎にも1両だけ「黄色い都電」が残っていますが、本家で復活した「黄色い都電」が「ビール電車」になるそうです。
 納涼路面電車 「 トラムdeビア号 」 運行 東京都交通局公式サイト
夏には「黄色い都電」を見に行きたいと思っているのですが、どうなるでしょうか…。