堺市長と阪堺電車

 阪堺電気軌道 モ605号
 堺のチンチン電車なくなる? 新市長、LRT「中止」 朝日新聞
 昨日、竹山新堺市長が就任され、記者会見が行われました。LRTは、「完全に中止したい。採算性がなく、町全体の景観モデルにも合わない」そうです、
他の新聞の記事を見ると、「都市モデルに合わない」という表現になっています。堺市のサイトに記者会見の動画が上がっていますが、30分も見る気がしないので、いちいち確認しません。前任者との対比をアピールしようということか、公約からしLRTの中止は当然のこととして、そこまで目の敵にしてボロカスに言わんでもとも思いますが、とにかくLRTは中止になるでしょう。堺浜への延伸も「費用対効果を調べ判断する」そうですから、結論は見えてもいそうです。そのかわり、住之江公園からの地下鉄四つ橋線の延伸を検討されるとも報じられています。堺浜には軌道系の輸送機関が必要との考えはお持ちのようで、そこは私には理解できませんし、巨額の費用を投じて、四つ橋線が堺浜まで来たとしても、大阪市内との連絡が便利になるだけで、堺市のほかのエリアへの波及がないですね。昔、三宝大阪市電の車庫があって、堺市内にも大阪市電が走っていたんですね。四つ橋線には市電の代替的な計画でもあったようで、実際に四つ橋線堺市内への延伸計画があり、軌道法の特許も取得していたのですが、すでに計画は中止になって、特許も失効しています。新たな延伸計画ということになりますが、その是非は、このブログの守備範囲を離れますので、これ以上はかかわりません。
 LRTの中止に伴って、もうひとつの問題が、阪堺線の廃止問題です。経緯は前にも書いたし、この朝日新聞の記事でも触れられているので、繰り返しません。この記事によると、「阪堺線は愛着があり、できれば市民ぐるみで守りたい」、LRT化には「あくまで民間事業者がすべきだ。不採算部分をLRT化して市がリスクを負い、将来、赤字まみれ路線になるぐらいなら、(廃止の)決断をする時がくるかもしれない」とのご認識にようです。
 福井鉄道の存続問題のときも書いたけれども、投資に見合う収益が上がれば、民間企業は撤退しません。だから、「上下分離方式」にして、利益が上がる程度に公共で負担してやる、不採算路線を維持するには、そういう方法しかないわけです。この市長の発言は、残念ながら、「上下分離方式」を根本から否定するものととるほかありません。とすれば、こちらの結論も見えてきたようです。「市民ぐるみで」なんてのは「乗って残そう運動」のイメージなのでしょうが、そんなことで問題が解決するとお考えなのでしょうか。
 しかし、この新市長は路面電車を「愛着」と「採算性」でしか見ることができないんですね。公共交通機関としての路面電車の存在意義を一顧だにしないという「見識」には恐れ入るほかありません。私は、結果的に阪堺電車堺市域が廃止になっても、それは堺市民がそうするというのであれば、とやかくいう筋合いのものではないと思っています。でも、「採算性」があることは民間企業がやりますよ。「採算性」がなくてもみんなが必要なことをするのが役所の仕事でしょう。「みんなが必要」、つまり「公共性」の議論を抜きにして、廃止を判断する。こんな粗雑な論理で、100年もの歴史のある路面電車を次の世代に受け継げないとすれば、無念であるということは、同時代を生きる者として発言せざるを得ません。
 公約の「一丁目一番地」でLRTをムダと切って捨てた同じ口で、阪堺電車に何十億の投資をし、継続的に支援するなどど言えないのかもしれない。そうであるとすれば、選挙の「行きがかり上」、阪堺電車は廃止されてしまうことになる。それはあまりに酷い話ではないでしょうか。