チンチン電車と女学生

広島電鉄 652号

先日紹介したチンチン電車と女学生という本、会社の帰りに堂島アバンザのジュンク堂に寄ったら入荷していました。それで、帰りの電車の中と寄り道したコーヒーショップで一気に読んでしまいました。
 この本の著者は、一昨年広島テレビで家政女学校のドキュメンタリーを制作したディレクターの方とその番組が賞をとったときの審査員だったライターの方で、つまりテレビ番組での取材が元になった本ということです。もちろんテレビにはテレビの利点があって映像でしか表現できないこともあるけれども、再放送があっても2、3回放送されるだけなのに対し、書籍であれば、時間的な広がりをもって、多くの人に読んでもらうことができるという利点があります。今回の本は、たんなるテレビ番組の焼き直しではなく、その後も取材を重ねているようで、淡いロマンスも織り込みつつ、電車の乗務員でもあった「女学生」の日常を生き生きと描いています。もっとも私のように話のアウトラインを知っている人間にとっては、今はおばあちゃんとなった「女学生」の皆さんの「生の言葉」をもっと聞いてみたいと思いますが、ノンフィクション作品である以上、基本はライターによって再構成され描かれる世界を読者が追体験することは当然だし、バイアスのない淡々とした語り口には好感を持ちました。時代を超えて、広く読み継がれてほしい本だと思います。

チンチン電車と女学生

チンチン電車と女学生

 そうだからこそ、あえて気になる点だけ書いておきます。96頁に昭和10年代半ばから路面電車宮島線に乗り入れていたという記述がありますが、通常営業で直通運転が始まったのは昭和30年代からなので、真意がよくわかりません。あと、冒頭で「埋もれた秘話発掘」という感じが強調されるのにちょっと違和感を覚えました。確かに取材過程ではそうだったのかもしれませんが、「太平洋戦争中に女学生が電車の乗務員をしていた」という程度のことは、公刊物にも記載がある事柄でもあり、現に私も知っていましたので、「周囲にいた広島の人が誰も知らない」とは思えないのですが。もちろん、今回広電の倉庫から名簿を探し出し、「女学生」のみなさんを探し当て、このような形で証言をしてもらうまでの苦労と努力を否定するものではありません。
 本筋からは離れるのですが、かなり気になることが書いてあるので、引用します。

 広電は今年(2005年)の8月6日をもって、「650形」の2両を廃車にする予定だ(取材後、方針変更があり、まだ1年ほどは現役を続けることになった)。残りの2両もいずれ引退させて保存するという。(10頁)

この本にこう書いてあるので、そうなんだろうかと思うしかないのですが、わざわざ「8月6日」に廃車にするなんて信じ難い気がします。結局、延期になったということは、引退については現在は未定ということになるのですが、被爆電車650形は通常の運用から離脱させざるを得ない理由があるにしても、貸切用や白島線用として、少なくとも1両、できれば2両、いや可能であれば4両とも、動態保存をお願いしたいです。その理由はここに書くまでもないと思います。